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2019年8月14日 (水)

【詐欺師列伝】(1) 『松本信幸』(公開捜索願も兼ねて)

201908121653290002リクルートホールディングスが東証1部に上場したのは2014年10月16日のことだったが、その翌年の9月から10月にかけて何件もの同社株の「購入申込書」を持ち歩いていた男がいる。

「購入申込書」は、宛先がリクルート社だったり、売主だったりとまちまちだが、購入株数(金額)が1500万株(520億円)、3000万株(840億円)などと莫大で、これほどの株数を単独で保有する大株主は筆頭株主の社員持ち株会(人数非公表 約6400万株)のほかに上場直後の株主構成を見ても大日本印刷や凸版印刷、電通、三井物産ほか数社に過ぎなかった。

この男が2015年9月下旬、ある会社経営者に提示した「状況報告」を見ると、「他者の商談申込件数2件の結果(資金の出所が問題)としてリクルート社の峰岸社長が直に2000万株まで決済することで、JVRD(私の顧客)の調整に入る。300万株(最大3000万円)→昨日、仮契約当事者同士で面談が行われ100万株~1000万株の予約を取り、(水)に内金1億円の送金と本契約が行われる。期限は最終期日の10月15日まで」とあって、さらに、
「(1) 峰岸社長捌き分 上限1000万株で月内交渉中 条件的に1株@3000円で配当が@200円 リクルート社内で実行」
「(2) 社員持ち株分間接捌き分 上限2000万株で10月15日まで 条件的に1株@2800円で手数料が@300円 社外での実行(買い手に不安あり)」
という経緯が述べられているが、実はこの「状況報告」に書かれた内容は全てがこの男の作り話で、実態は一切なかった。一面識もないリクルートホールディングスの峰岸社長が陣頭指揮を執っているかのような作り話を、この男、松本信幸(=写真)は何の目的で、偽造、捏造の書類まで作成して振り回したのか。それは、前述の会社経営者を始めとした関係者たちから出資金名目に詐欺を働く“小道具”に使った、ということである。「今、数人で進めている事業計画の、自分がペイマスター(胴元)の立場で20~30億円入るので、他には払わずに全額持参します。横領で訴えられる可能性もありますが、覚悟しているので大丈夫です」と会社経営者には言っていたが、松本は金を持参しなかった。会社経営者に限らず被害届が出れば有印私文書偽造、同行使、詐欺の常習犯として“御用”となる。

こうした手の込んだ詐欺とは別に、松本は神奈川県小田原の根府川にあるレストランの女性経営者から借用した5000万円の返済を名目に、会社経営者の妻から500万円を借り受けたが、女性経営者への返済というのは嘘で、まさに寸借詐欺だった。

松本が詐欺を常習的に働いてきたことは、この会社経営者への「謝罪文」を見ると分かる。松本もその事実を認めているのだが、松本と会社経営者との関係は35年以上にも及んでいたのに、その半分以上の時間を松本は身勝手な作り話を振り回して会社経営者から事業資金名目に借金を重ね、あるいは返済を逃れる為に新たな事業計画を持ちかけてきたのだ。

「松本と知り合ったのは35年以上も前のことで、当時、経営していた会社が倒産の危機にあると言って4500万円を貸したのが始まりだった。松本は『実家の家を売って返済します』とか『二人の弟から借りる』とか『香港での取引で払う』と言ったが、全部が言葉だけで返済の実行は無く事業計画の成果など一つも無かった。案件を持ち込むたびに松本は嘘の報告を繰り返していた」 

松本が自分を信用させる手口に使ったのが、一般には知られていないかも知れないが、秋田義雄氏という日本でも有数の資産家の名前だった。松本は「秋田氏の自宅に住み込んでいて、長男である義行氏と極秘裏にさまざまな事業計画を進めており、その報酬として200億円を受け取ることになっている」と吹き込んでいたのである。松本が自宅に戻るのは年に一度、正月の数日くらいしかないというほど「義行」氏との事業に入れ込んでいるかのような口ぶりだったという。しかも、その事業計画を会社経営者に話すに当たっては、「情報が他に漏れると絶対にまずいので、毎日夕方の5時に社長の自宅に電話をします。電話に出るときには周囲には誰もいない状態にしてください」と言って唆し、さらに「盗聴されてはいけないから」とも言って、いつも公衆電話から一方的に電話を架けてきたために、会社経営者は詳細を確認することもできないままだったという。それでいて、会社経営者が「秋田氏を紹介して欲しい」というたびに、「今は香港に行っている」とか「面識のない人には会いたがらない」と言って、会わそうとはしなかった。

松本が持ち込んだ案件は数が多く挙げればキリがないほどで、「国債の還付金」や「フィリピンの金塊」「アメリカのカジノ事業」などがあった模様だが、松本はその度に「義行」氏の名前を出し、また報酬を受け取る話もして信用させ、活動資金や事業資金を名目にして会社経営者から借金を重ねていった。前述のリクルート株の大量購入もその一つだったが、それに平行して松本が持ちかけていたのが「公営競技施設株式会社 ウインズ木更津への融資45,000万円の仲介」や「聖マリアンナ病院650億円の売買 三菱商事とコンタクト中」「浅草タウンホテル30億円の売買商談申込」などの他に数え切れないくらいの案件を持ち込んだ。口からでまかせとはいえ、よくもそれだけの作り話を吹き込んだものだ。

とはいえ、会社経営者に対しては口頭だけではなく、冒頭に記した「株式購入申込書」(購入者の法人名や個人名が記載されたものが6通ほど)や「状況報告」、さらには「義行」氏が手書きしたとする「約定書」などを会社経営者に十数通も持ち込んでいた。その「約定書」のひとつには、
「平成25年9月5日付の秋田義行からの約定書に基づき、同年9月21日付で金220億円に、同年8月から平成30年12月までの分割金の内、金9000億円より、2回分の150億円を加算した370億円を現金ネットにてお支払いたします」
とある。そして、そのただし書きに「尚、秋田義行からの約定書の内容について責任を持って実行すると共に私に何かあった時には全て貴殿に譲渡いたします」(平成25年9月13日付)という文言が続いていた。「義行」氏への事業協力で、松本には200億円からの報酬が約束されている、というのが、松本の言う「秋田義行との約定」ということだった。

こうした言動を、松本は平成19年から同26年まで7年にもわたって繰り返し、会社経営者はその間、慶弔事にも出られなかったほどだったというが、さすがに嘘が発覚する状況が起きた。
「松本が『秋田義行の家に取り敢えず20億円を取りに行く』と言うので、松本の運転するワンボックスカーに乗ると、一番奥の後部座席に見知らぬ男(後に元田と名乗っていた)が座っていて、私はその前の席に座ったが、しばらく走ると、奥に座っていた男が私の腕に注射器を刺そうとしたので払いのけた。松本にどういうことか、と聞くと、注射器の中身は劇薬だったようで、その男が『打たれたら数秒で意識を失っていた』と言っていた」

松本はとんでもない殺害未遂事件まで起こしたのだ。会社経営者が松本に迫った結果、遂に真実を話さなければいけないという事態になり、松本は秋田義雄氏と面識もなければ、義雄氏には「義行」なる子息はおらず、松本が作り上げた全く架空の人物だったことまで白状したのである。松本は「謝罪文」に、
「(返済を猶予してもらうための)時間稼ぎの為に平成19年から平成26年にわたり、世田谷区代田在住(日本では有名な資産家)の秋田義雄氏の名前、その息子として秋田義行なる全く存在しない人間の名前で何十通もの偽造書類(支払約定書)を提出し、又、ダンボール1箱に1000万の束で2億円分を入れ、そういう箱を何十個(総額75億円)も作り、表面の1枚だけ1万円札を使い写真を撮って、さも大金が手元にあるというトリックを使ったり、大王製紙との接触により香港での運用を本当のように見せかけた」

松本はそう述べたが、手の込んだ偽造書類をいくつも作ったり、儲け話を創作するなど尋常ではない。まして、嘘が通用しなくなると見るや殺害計画まで実行したのだから、実に恐ろしい男だ。

会社経営者が松本に貸し付けた資金の総額は、平成15年現在で約26億円余りになっているが、これは借金を重ねるばかりで返済が全く無いために元本が膨らみ、さらに30数年分の金利も加算された結果という。松本への貸付はまさに“泥棒に追い銭”の類に違いないが、日本でも有数の資産家(秋田氏)がバックについていると豪語しつつ、義雄氏のみならず子息(義行氏)の直筆の支払約定書を提示されれば、会社経営者ならずとも信用してしまうのではないか。秋田氏やその関係者が、この記事を読んで松本に対して法的な措置を取ったとしても、何ら不思議は無い。

ところで、松本を債務者とする借用証書には、連帯保証人の欄に行政書士をしている松本の妻の名が書かれていたが、その事実を知った妻は驚き、「私が保証人と言われても署名していないから、私の字ではない」と言ったという。後に分かったことだが、松本が知人に署名させたものと「これは妻が書いたものに間違いない」というものとが混在した形で借用書の体裁を整えていたというが、それでも信義は不明だ。

松本は借金の返済を引き延ばすために新たな作り話を持ちかけ、時間を稼ぐ中で、「自分の代理人で田代という人物に会って欲しい」と言ったことがあり、会社経営者が待ち合わせのホテルに行くと、「両手の小指がほとんど欠けている手をテーブルの上に置いている男がいて、私を威圧する気でもあったようだが、『あなたはヤクザですか?』と尋ねると『違う』というので、『ならば、両手をテーブルから下ろしなさい』と言って、『あなたがここにいるのは、松本の借財について責任を持つということですか?』とさらに聞いたが、男は驚いた様子で『それはできない』という。いざとなると松本は、そんな小細工しかできない」という場面もあったという。

まだある。松本は「(償いに)仕事をお手伝いさせてください」と殊勝な態度を見せて会社経営者の会社に入り込んだが、わずか数ヶ月という短期間で約250万円以上の金が紛失していることが発覚、松本が横領した事実が判明した。その直後から松本は会社には来なくなり、以来、姿をくらませた。

会社経営者の手許には複数枚の謝罪文があるが、松本が謝罪文を書くに当たっては「常習的な詐欺行為を繰り返したもので、言い訳の言葉もなく、浅はかな考えでご迷惑をおかけしたことを心からお詫びいたします」と反省した態度を見せたが、それがまさに素振りだけだったということが、これまでの経緯を見ればよく分かる。松本という男、詐欺を常習的に働くことをやめられない、まさに根っからの詐欺師というほかない。
松本は、現在は所在不明で何をしているのか、会社経営者ほか関係者たちには不明だが、手の込んだ偽造書類を作り、資金を出しそうな人物を今も物色しているに違いない。「2年ほど前に松本が謝罪に来るというので待ったが、遂に現れなかった」と会社経営者は言うが、寸借詐欺に留まらず、時には反社会的勢力を使って被害者を怖気づかせようとしたり、未遂とはいえ殺害を計画するなど、こんな人間を世の中に放置して置いたら、被害者が増えるばかりではないか。ちなみに、松本は過去に名簿業者の仕事をしていた際に警視庁に逮捕された経歴もある。

なお、「秋田義行の直筆」と松本が強調した「約定書」について、近日中に続報する。(以下次号)

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