■警視庁による家宅捜索、関係者への事情聴取を経て、すでに焦点はその摘発時期と容疑の中身に移っているとも言ってよい、日本振興銀行と木村剛元会長。
■金融庁検査では、業務上のメール多数を意図的に削除して検査忌避していたが、本誌6月12日既報のように、同行ホームページでは、「中小企業振興ネットワーク」に提供されていた顧客個人情報の規定などに関するPDFファイルが削除されている。また、木村氏が銀行の会長職を辞した後も、理事長を務めているとされる「中小企業振興ネットワーク」のホームページも、役職を確認しようにもこの間の騒動で「リニューアル閉鎖」されたまま。現在、開くことすらできない状態だ。5月31日に休止した木村氏のブログ「ゴーログ」同様、「自粛期間中」なのだろうか。
■5月27日の行政処分の発動、そして6月12日の任意の事情聴取を先回りしてか、木村氏は5月10日の取締役会で振興銀会長を辞任。以後、5月17日の決算発表、謝罪会見、5月30日の株主総会も欠席し、警視庁からの任意の事情聴取に応じた以外は表から姿を隠し、あらゆる手を尽くして逃げ切りを図ろうとしているかのように見える。
■加えて今回、木村元会長らは、自らに批判的な雑誌、ジャーナリストらに関する民事訴訟を取り下げ、法廷闘争の場からも「フェードアウト」していたことが取材で判明した。「取り下げ」が分かったのは、昨年5~9月の間に提起された、
・原告=木村剛氏/被告=ジャーナリスト佐高信氏の「損害賠償等」訴訟(3000万円)
・原告=日本振興銀行/被告=会員制情報誌「FACTA」を発行するファクタ出版に対する「損害賠償等」「謝罪広告等」訴訟3件(3000万円+3000万円+1億1000万円)
の計4件。
■訴状などによると、佐高氏に対しては、09年3月8日のTBS「サンデーモーニング」内などで、東京地検特捜部がライブドア、村上ファンドを摘発した当時、捜査対象の符丁となっていた「MHK」のイニシャルを挙げ、「K」である木村氏にも嫌疑をかけられたが、政府与党に近い存在であるため逮捕には至らなかった、といった趣旨の発言が名誉棄損であるとするもの。
■「FACTA」に対しては、同誌09年5~8月号に連続4回で掲載された追及記事(「木村剛銀行」が堕ちたケモノ道、「木村剛銀行」にマネロン疑惑、金融庁が暴く「木村銀行」架空口座、木村剛が「生き餌」にするボロ企業群)が、信用棄損・業務妨害などに当たるとしたものだ。
■前者に関しては、放送を流したTBSサイドが早々と非を認め、翌週の放送内で「おわび」を述べたことで「和解」と解する佐高氏に対し、木村氏側は「話のすり替え」として、3000万円と日経新聞への謝罪広告を強く迫った。また、後者では、度重なる複数訴訟が2重訴訟に当たるとして「併合」を求めていたファクタ側に対して、振興銀側は「別個の案件」として、これを退けるという具合で、被告側もこれに反発、あるいはもともと徹底抗戦の構えを示し、両者、対決姿勢を深めていった。
■ところが、佐高氏に対しては今年6月1日、ファクタに対しては6月4日、7日に2件の訴訟が取り下げられる。残る1件が取り下げられたのは、ファクタ側が、同誌が指摘し続けてきた木村氏らの問題点が行政処分で〝事実認定〟されたのを受け、「棄却するか取り下げるべきである」と、弁論準備書面で事実上の〝勝利宣言〟を主張した6月11日だった。
■結果、この4件の訴訟は完全な「SLAPP」(恫喝訴訟)であったことが明らかになったが、訴訟をチラつかせて木村氏が〝体面〟を取り繕おうとしたのは今回が初めてではない。
■有名なのは、06年元旦に朝日新聞が社会面トップで報じた「木村会長の親族会社に1億7千万円を融資」の記事の一件だ。04年の開業後、銀行設立メンバーの落合伸治氏との確執により木村氏が社長に就任。以来、経済誌を中心にバッシングを浴び続けてきた同行の木村氏親族企業への融資が「情実」とする報道だが、朝日が元旦と、1月30日付で報じるやいなや、振興銀は同紙を「提訴すると決定」とアナウンスした。
■以下は、朝日報道があった当時の、1月4日、30日付けの「ゴーログ」からの引用だ。
「本来弱者の味方であるはずの朝日新聞が、誹謗中傷を目的とする情報を鵜呑みにし、弱者である零細企業に対して貸し出しを行っている日本振興銀行を叩くだけの記事を書いたことを悲しく思います」「マスコミについては、事実か否かという裏も取らずに、勝手な妄想で興味本位な報道を垂れ流す傾向があることを否めません」
■ところが結局、振興銀は朝日を訴えなかった。まさかそこまで言いきっているのだから、訴えないとは思ってもみない他のマスコミは、「訴訟へ」と報じた。そのため勘違いされていることも多いようだが、実は口だけだったのだ。
■訴訟をチラつかせながらそのままということで言えば、本誌が2月15日に報じた同行の未公開株流通問題でも、違法に同行の未公開株を販売している業者に対し、「民事刑事の両面から法的措置を講じる」とIRしていたが、振興銀が法的措置に訴えたという話はついぞ聞こえてこない。
「これまで散々バッシングを浴びてきた同行では、実は書かれている割に訴訟はない。嘘が書かれてないからだ。ところが同行のマスコミ対応には問題があって、それは、時折嘘をつくということだ」(同行に詳しい金融記者)
■それゆえ、自らに不利なことはIRで問題をあたかも〝処理済〟として装う。加えて、〝言論人〟でもあった木村氏のブログでさらなる扮装を施す。木村氏と日本振興銀行はそうして体面を取り繕ってきた。
「西野社長は否定したが、木村氏には、今回の金融庁の検査結果とその処分を先回りして、昨年から銀行関係の保有株式を処分していた疑いがある。この間の木村氏の行状を見ていても、逃げ切りを図ろうとしているようにしか見えない」(同前)
(フリージャーナリスト重信 悟)
【参考記事】
木村剛「日本振興銀行」、未公開株「流出ルート」を追う
http://outlaws.air-nifty.com/news/2010/02/post-052e.html