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2008年9月24日 (水)

【注目の本】『戦略の本質 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ』(日経ビジネス人文庫)

Senryaku本書はタイトルにある通り「戦略の本質とは何か」、ということを長期にわたって突き詰めたプロジェクト(野中郁次郎一橋大学名誉教授ら研究者6人)の成果である。

彼ら研究者たちは、今から20年以上も遡る1984年に『失敗の本質』を発表し、なぜ日本軍は敗北したのかを世に問うた。と同時に、研究者たちの脳裏から離れないものがあった。それは日本軍とは逆に「なぜかれらは勝利を獲得できたのか」という問題意識である。

そこに戦略的な共通性はありうるのか。同プロジェクトは「圧倒的に不利な状況で逆転を成し遂げるときに、戦略の本質が最も顕在化する」との仮説を導き出し、20世紀の戦史から「大逆転のケース」を選定し、検証を加えている。本書で取り上げられている〝大逆転の事例研究〟は以下の6つである。
●毛沢東の反「包囲討伐」戦
●バトル・オブ・ブリテン
●スターリングラードの戦い
●朝鮮戦争
●第4次中東戦争
●ベトナム戦争

この中で本誌がとくに興味深く読んだのが毛沢東の反「包囲討伐」戦。すでに革命家「毛沢東」の歴史的評価は、多くの暴露によって地に堕ちた感があるが、その一方で「若き毛沢東」はまがうことなく天才的な軍事指導者であったことを本書で再認識させられた。

第1次国共合作から北伐を開始した蒋介石は1927年4月12日、一転して共産党に対する大弾圧をはじめる。世に言う「上海クーデター」である。一方、中国共産党はコミンテルンの指令にしたがって都市における「武装蜂起」路線に転換。この時、毛沢東は湖南省の責任者で長沙を取ろうとしたが失敗し、党の指令に反して撤退、江西省と湖南省の省境に位置する山岳地帯・井崗山(せいこうざん)に残存部隊を率いて逃げ込んでいる。翌28年5月、各地を転戦して生き残った朱徳の軍が井崗山に合流。ここに兵力1万の「労農紅軍第4軍」が再編成され、井崗山を根拠地とした。毛沢東35歳の時である。

では、このような弱小な共産党軍が何故、強大な国民党軍に長期にわたる戦闘の末、勝利できたのか。この「大逆転」を可能にした戦略・戦術の原点は、毛沢東の反「包囲討伐」戦にあったと本書はいう。それは、1930年12月から34年10月にかけて1次から5次にわたる蒋介石の「包囲討伐」と呼ばれる作戦に対抗した戦闘で、「正規戦」に対する軍事戦略としての「遊撃戦」の概念を毛沢東は創造・実践・修正していった。

毛沢東らはすでに井崗山の時期から「敵進我退」(敵が進めば退き)、「敵駐我撹」(敵が駐まれば撹乱)、「敵疲我打」(敵が疲れれば攻撃)、「敵退我追」(敵が退けば追う)という16字句の戦いの基本原則を確立。これに毛沢東は、「誘敵深入」(敵を深く誘い入れる)、「利而誘之」(利してこれを誘う)を加え、6要件としたという。

毛沢東は緒戦に勝つことを極めて重要視した。「敵情、地形、人民等の条件がすべてわが方に有利で敵に不利であり、ほんとうに確実性があったとき手をくだすべきである」として、紅軍は敵を深く誘い込む作戦方針を実行し、第1次反「包囲討伐」戦では逆に国民党軍6000人を盆地に完全包囲することに成功。この緒戦で敗れたのを聞いた国民党の別の師団は撤退を開始するが、紅軍は追撃戦を展開し、1万5000人余りを殲滅している。この勝利は紅軍の建軍3年来最大の勝利で中国全土を震撼させた。

さらに毛沢東は、第3次反「包囲討伐」戦で10倍の敵と相対することになる。当時、紅軍の兵力は僅か3万余りに過ぎなかった。そこで毛沢東は、「敵の主力を避けて弱いものを打つ」「ぐるぐる引き回す」という遊撃戦と機動戦を遺憾なく発揮し、3カ月間で6回おこなわれた戦闘のほとんどで勝利している。31年9月17日の「満州事変」による情勢の急変で、蒋介石の討伐軍は撤退を余儀なくされ、ほぼ全域を占領されていた根拠地を紅軍は奪還した。

ところが、党中央は毛沢東の遊撃戦を「陣地戦」と「攻城戦」を軽視した逃走主義として厳しく批判し、積極的攻勢を主張。毛沢東を紅軍の指導的職務から解任してしまった。その結果、どうなったか。第5次反「包囲討伐」戦では、「寸土といえどもソビエト区を敵に蹂躙させるな」とのスローガンに端的に示される「陣地戦」を、周恩来指揮下の紅軍は約1年間にわたって展開。しかし根拠地を持ちこたえることが出来ず、手痛い敗北を喫している。

この敗北で毛沢東による「長征」が開始。34年10月16日から翌35年10月20日までの370日間、延安までの1万2000キロの距離が踏破された。

本書は、「遊撃戦」という概念を創造した毛沢東の方法論とリーダーシップについて以下のような視点から分析している。
(1)戦争の弁証法
遊撃戦の概念は、毛沢東の事象の本質把握の方法論と深くかかわっている。その事象の本質把握の方法論は弁証法である。毛沢東の攻防関係の弁証法は、井崗山時期の「16字句」から、反包囲時期の「誘敵深入」方針などに典型的に示されている。
(2)「人民」の軍隊と戦う意志
敵が強く我が弱い、しかし我は不敗であるという矛盾を克服する最も基本的な戦略は、常に紅軍を支援する膨大な数の人民と共に戦うことである。紅軍将校の慣用句は「ものども続け!」であって「ものども進め!」ではなかった。
(3)「動く」根拠地
重要なことは根拠地は単に静態的な空間ではないということである。第5次反「包囲討伐」戦では、「鍋や釜を叩き壊される」ことを怖れ土地空間に執着したことが敗戦の一因であったと毛沢東は批判した。
(4)組織の機動化
遊撃戦は静止してはならないのである。スピードが基本であり、組織の機動性と戦術展開能力を育成しなければならない。
(5)情報活動
敵が強く我が弱い、しかし我は不敗であるという矛盾は、兵士を拡充・教育し(質的転換)、敵を根拠地に誘い込み(空間転換)、迅速な分散と集中を可能にする機動戦(時間転換)によって克服されるのであるが、そのような条件転化に不可欠なのが情報である。紅軍はすぐれた情報活動を展開。遊撃隊は地方に着くと最初に調査活動をおこなった。毛沢東の「調査なくして発言権なし」は有名な言葉だ。
(6)毛沢東のレトリック
毛沢東は概念を伝達するレトリックにたけていた。彼はメタファー(隠喩)やアナロジー(比喩)を駆使して人を説得した。毛沢東のメタファーは歴史的なものが多い。農民にとって『三国志』や『水滸伝』は読むものではなく、芝居、歌などで聞くものであり、見るものであった。メタファーの活用は組織おける価値の共有と創造性開発のリーダーシップの要件とも考えられる。
(7)「知」の方法論の共有
反「包囲討伐」戦の過程での毛沢東のすごさは、成功をもたらす認識の方法論を紅軍兵士に共有させようとしたことである。毛沢東は「人民大衆は無限の創造力を持つ」と信じており、それを開発するための組織的方法論を紅軍のなかに組み込んだ。三大民主がそれである。一方、毛沢東の戦いは、共産党内部における党中央の机上の理論化(教条主義)に対する戦いでもあった。しかし、毛沢東の方法論は、同時に極端に走った場合には、「壮大な愚行」とも言われる後の文化大革命につながる「反知識主義」に陥る危険性を持つ。

本書は05年8月に日本経済新聞出版社より刊行、最近になって文庫化された。

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