「これでは2割が助かるだけで、残りの8割を切り捨てることになる」
倒産した英会話学校最大手NOVAの〝処理案〟を聞いたメインバンク筋が思わず洩らした言葉だ。周知のように、同社は07年10月26日、会社更生法の適用を申請した。保全管理人は東畠敏明、高橋典明両弁護士だったが、そのわずか10日後の11月6日に今度は、一部事業の譲渡と会社清算(後に破産手続き開始)が突如公表された。事業譲渡先は、名古屋市のジー・コミュニケーション(稲吉正樹会長兼社長)という聞き慣れない会社だった。ジー社が当面、引き受けるのは採算性の高い30教室で、最終的には200教室体制を目指して努力する、とされた。
NOVAは、猿橋望前社長の拡大路線により、全国に925ヵ所の教室(07年3月末)を抱え、その生徒数は40万人以上に達していたが、今回の処理で〝救われた形〟になったのは、先のメインバンク筋が思わず洩らしたように、全体のわずか2割程度に過ぎなったと見られる。しかも、NOVAが徴収していた「前払い受講料」の債務をジー社が一切引き継がなかったため、ジー社が再開した教室に通う生徒でも、前払い受講料の25%を追加で支払う羽目になっている。
そもそも、NOVAの最大の債権者は、保全管理人側の発表で570億円に達する「前払い受講料」を納めていた40万人以上の生徒たちであった。しかし、前払い受講料よりも税金や未払い賃金などが優先されるため、生徒への配当はゼロ。本来、一律に扱われるべき最大の債権者である受講生の間にも大きな〝不平等〟が生まれていたのだ。大手マスコミは〝抽象的な救済〟を叫んでも、こうした点は一切指摘しなかった。と言うよりも、保全管理人側に対する批判的視点が欠如していたのだ。
これ以外にも、今回の倒産劇には不審な点が幾つかある。NOVAの内情に精通する人物が次のようにいう。
「ジー社に譲渡された最初の30教室は、再開すれば翌日からでも直ぐに利益が出る超優良店舗だった。NOVAの上位100教室までは収益が上がっていたんです。しかも、各教室は賃貸契約のため平均で10ヵ月分の保証金が積んであった。今回は、言わば〝持参金〟付きで、打ち出の小槌をくれてやったようなものです。さらに、猿橋社長から私が聞いた話では、前払い受講料は450億円しかなかった。もちろん直接、資料も見せてもらっています。ところが、保全管理人によると570億円に膨らんでいる。差額の120億円は一体何なのか。前払い受講料という巨額債権を飛ばすシナリオだったとしか思えませんね」
たしかに、ジー社、保全管理人双方とも譲渡金額については一切口を噤んでいる。仮に、これが限りなく「無償譲渡」に近いものであったとするなら、まさに米系投資ファンド・リップルウッドが日本長期信用銀行をわずか10億円で買った、あの〝悪名高い話〟を想起させる。そもそも、ジー社が譲渡先として選定された過程がまったく不透明なのだ。「倒産直後の記者会見で、保全管理人は何故か支援先として丸井、楽天、HIS、ヤフーの具体名をあげた。通常、こうしたケースでは、交渉先の名前は出さないものなので、違和感がありましたね。案の定、この4社に取材してみると、〝何も話は聞いていない〟と完全否定でした。ジー社への譲渡が唐突でないことをアピールするため、わざと4社の名前を出したのではないかと訝る向きもある」(全国紙記者)
ジー社は94年に愛知県岡崎市で、稲吉会長兼社長が小さな学習塾を創業したのが始まりだ。その後、「EC英会話」を傘下に収めるなど、業容を急拡大。現在は持ち株会社となり、回転すし「平禄」、ちゃんこ料理「江戸沢」、「焼肉屋さかい」など経営不振の飲食チェーン店を次々に買収。闇勢力に食い潰され倒産したゼクーからは「とりあえず吾平」という居酒屋チェーンも手に入れている。
「美味しい所だけを手際よく持っていくのは、まさにプロの手口。とても、稲吉氏個人だけの手腕とは思えない。バックには〝ハゲタカ・ファンド〟の影もちらついています」(フリーの事件記者)
では、何故このような〝白昼強盗〟とも言うべき破たん処理がまかり通ったのか。大手マスコミが、NOVA〝猿橋=悪玉〟論に固執したため、うまく情報操作に乗せられたフシがあるのだ。たとえば、NOVAが倒産する約2週間前の10月9日に決まった調達額64億円の第三者割当増資(新株予約権)に、仕手筋・西田晴夫らが関与していたという情報が唐突に流れたこと。西田は3日後の12日に旧南野建設の株価操縦容疑で逮捕されるが、その前後から「引受先は西田グループ」「西田と親しい白杉恵子氏がファンドの名義を借りた」などNOVAと西田グループを関連付ける様々な情報が流布された。これに飛びついたマスコミも多かったが、結論から言うと本誌既報のように、そうした事実はなかった。
実際に引受先となったのは、英領バージン諸島の「タッチ・ペニンシュラ・トレーディング・リミテッド」と「タワー・スカイ・プロフィッツ・リミテッド」。実は、この2ファンドは、阪中彰夫氏が代表を務める「ソブリンアセットマネジメントジャパン」(東京・千代田区)を日本側の窓口にしていた。
阪中氏は野村証券の出身で、北尾吉孝・SBI社長などと同期入社。過去に丸石自転車、旧プライム・システムなど事件化した銘柄の増資引受先になったことから一部で注目を浴びるようになったが、本人がマスコミにほとんど登場しないため「謎の投資家」とされてきた。その阪中氏に極めて近い人物が、本誌の取材に応じた。
「今回のNOVA増資に西田グループは一切関与していません。阪中と猿橋(NOVA前社長)が初めて会ったのは8月下旬。阪中が築いてきたアメリカ議会人脈の知人らを介して、猿橋がどうしても会いたい、ということだった。阪中の事務所を訪ねて来た猿橋は、今にも泣き出さんばかりに増資を懇請した。そうは言っても、簡単に応じられる話ではない。すでにNOVAは受講料の解約などが殺到し、危機的状況でしたからね。その後、阪中はNOVAの財務内容などを調査し、猿橋との協議も重ねた結果、NOVAのブランド力やキャッシュ・フローから見て、受講料の預り金問題さえ増資によって解決できれば、再生できると判断した。それで増資を決めたんです。阪中は用心深い男で、こういった場合、相手先の経営者としか会いません。今回もあくまで阪中と猿橋の間の話であって、西田とか白杉なんて連中が関与できるハズもないのです」
もちろん、この増資は新株予約権の発行で、10月24日に払い込まれた金額は7000万円に過ぎず、予約権の行使状況によっては調達額64億円に遥かに及ばない可能性もあった。場合によっては、資金ショートも十分に考えられる状況だったが、前述の阪中氏に極めて近い人物から次のような驚愕すべき証言を得た。「実は、猿橋は25日に取締役会を招集しているんです。そこで、顧問1人の就任を条件に、30億円分の予約権が行使される予定だった。阪中が、ある投資家に交渉しOKをもらっていたんです。しかし、Yら造反派役員は猿橋の招集に応じなかった。逆に、25日深夜から翌26日未明にかけて、造反派役員は会社更生法を決議してしまった。すでにその時には本社の中にテレビ・クルーが呼び込まれており、例の〝豪華社長室〟公開という段取りになっていた。会社更生法の手続きにはそれなりの準備期間が必要で、相当前から計画されていたのではないか」
猿橋氏の放漫経営は事実としても、一連の動きはNOVAを買い叩きたい側にとって、実に都合のよいものだった。NOVAの倒産劇で誰が一番得をしたのか、改めて検証する必要がある(一部敬称略)。
【「西田関与」情報がNOVA倒産に巧みにリンクされた】
6月 経済産業省がNOVAに業務停止命令
7月末 NOVAがコンサル会社「ルーツ」(濱田雅行社長)と株券貸借取引契約を締結(濱田社長は、猿橋氏側から2200万株を取得したが、8月10日までに1400万株を返却)
8月末 濱田社長が、猿橋氏から預っていたNOVA800万株のうち500万株を市場で無断売却
8月末 猿橋氏がソブリン・阪中氏に増資の要請
9月12日 NOVAの株価が50円を割り込む
9月末 猿橋、阪中両氏の間で新株予約権の発行について実質上の合意
10月上旬頃 大物仕手筋・西田の逮捕情報と同時に、西田グループがNOVA増資に関与しているとの情報が流布
10月 9日 NOVA取締役会、調達額64億円の新株予約権の発行を決議
10月12日 西田晴夫が旧南野建設の株価操縦容疑で大阪地検特捜部に逮捕
10月24日 ソブリン側が新株予約権発行額の7000万円をNOVAに振り込む
10月25日 同日深夜から翌26日未明にかけてNOVAが取締役会を開催し、会社更生法手続きの申立てを決定
10月26日 大阪地裁、NOVAの保全管理命令を発令
11月 6日 保全管理人が大阪市内で記者会見し、ジー・コミュニケーション側に一部事業譲渡と発表
11月26日 保全管理人が大阪市内で記者会見し、大阪地裁から破産手続きの開始決定を受けたと発表
12月 3日 破産管財人が大阪市内で被害者説明会を開催。受講生への配当は困難であることが明らかに。