
ここからは、監視委員会の問題点を本件だけに限らず、一般的に取り上げ、いかに重大な弊害を日本経済に引き起こしているかを述べて行きたい。現在の日本の仕組みでは、証券取引関係の捜査は、すべて最初に監視委員会が取り扱う。つまり証券取引関連の犯罪はすべて監視委員会が探し出して捜査するのである。もちろん証券取引関連の犯罪は断固として摘発せねばならないものであり、機能としての監視委員会は絶対必要なものである。だから監視委員会の権限は新金融商品取引法の基で強化され、その行動はすべて国民の血税でまかなわれているのである。ところが、実際は監視委員会の行動には大きな問題がいくつもあり、結果的に国民の血税が、日本経済を沈没させて国民の生活を脅かすのに使われている。逆に本当に摘発しなければならない重大事件が数多く見逃されている、と言うより意味があって意識的に避けられているのである。
監視委員会の調査・捜査は二種類ある。「課徴金課」による調査と「特別調査課」による捜査である。前者は犯罪としては見なさず、単に課徴金を課することを目的とし、後者は、最初から犯罪として告発することを目的としており、当社に来たのもこちらである。
まず最初の問題として指摘したいのは、どのケースが課徴金の対象であり(繰り返すが、これは犯罪ではないようである)、どのケースが特別調査課の扱いで犯罪として告発の対象になるかの境界が非常にあいまいであり、多分明確な規定が存在しないのである。それではその区別が客観的に誰でも納得できるかと言うと、これが100%違うのである。誰が見ても悪質なものが犯罪として告発の対象となっており、多少悪い程度のものが課徴金の対象となり、取るに足らないものが調査・捜査の対象にもならないのであれば何も文句はないのであるが、実態はまるっきり違うのである。例えが良くないが、殺人事件が罰金刑で、駐車違反で無期懲役みたいなものなのである。
さらに言うと、明らかに殺人事件が起こっているのにあっさりと捜査を打ち切るような事例も見られるのである。私は「架空増資」の容疑で特別調査課から犯罪として告発されようとしている。その内容は前述したとおり絶対に「架空増資」に当たらないものである。ところが世の中には、あきれるほど悪質な架空増資が起こっているにもかかわらず、意識的に見逃されている事件が数多くある。昨年のトランスデジタルと井上工業はそれぞれ20~30億円の増資をしておきながら、翌日には会社に金が1円も残っておらず、そっくりと引き抜かれていたのである。もちろん資金を引き抜く(還流などの生易しい表現ではなく、文字通り強奪されていたのである)正当な取引などあるはずがなく、しかも両社とも倒産してしまい、株主や取引先に多大な迷惑をかけ、従業員は全員路頭に迷わされたのである。しかも資金の行く先には反社会勢力の名前が取りざたされているが、監視委員会は全く動こうとはしない。むしろ反社会勢力の影が見えるから動こうとしないのかと思ってしまうほど不自然な無視の仕方なのである。本当だとするとこんなことがあってよいのか?
本件は、リークされている新聞報道によりと「架空増資」の容疑のようであるが、一番新しい産経新聞のリーク記事では「証券取引法違反(偽計)」と変わっているようである。繰り返すが、平成19年11月の強制捜査直後のリーク記事では「証券取引法違反(相場操縦)」であった。そもそも捜査と言うものは、最初から疑わしい「容疑」があり、その立証をしようと捜査するものであるはずのものが、まず強制捜査をかけてから、いろいろ「容疑」をどれにするか検討してくれているのである。
専門的に言えば「架空増資」は監視委員会の権限である金融商品取引法では裁けないので「偽計取引」で立件することが多い。しかしここに来ての変化は「架空増資」ではなく「偽計取引」そのもので立件しようとしているように思える。「偽計取引」の偽計とは、株価の変動や株取引のために人を欺くことをいい、非常に広い概念であり、ライブドアの元社長が起訴されたのも、この「偽計」である。それでは本件のどの部分が「偽計」に当たるのか?
これも典型的な「偽計取引」があったにもかかわらず、監視委員会が早々と見送りを決めてしまったケースがある。昨年アーバンコーポレーションが300億円のファイナンスが出来たと市場に発表しておきながら、実際は隠してあった契約があり実際は90億円ほどしか調達できていなかった。これが後で明らかになり、結果信用失墜でアーバンコーポレーションは倒産し、多くの株主や取引先に甚大な被害を与え、さらに多くの従業員を路頭に迷わせたのである。これこそ教科書に載せてもいい「偽計取引」であるが、なぜか監視委員会は早々と見送りを決めてしまった。囁かれる理由はアーバンコーポレーションの取締役に元検事総長がいたことである(早々と辞任されたようであるが、件の発行決議のときは取締役の席におられたはずである)。これも本当だとすればこんなことがあってよいのか?
再度繰り返すが、ペイントハウスは、未だに子会社で業務を続け、一度も会社都合で従業員を解雇せず、全員でがんばっているのである。つまり従業員にも取引先にも全く迷惑をかけていないのである。このペイントハウスの支援を全力で行った私が、監視委員会の特別調査課の追及を受け犯罪として告発されようとしているのである。前述の事例と比べ、いかに不合理かつ不公平な扱いであることをわかっていただきたい。
何より問題は、強大な権限を証券市場で与えられている監視委員会がこういう不合理なことを堂々と、国民の血税を膨大に使いながら行っているのである。私だけのことを言っているのではなく、強大な権限を持つ捜査機関が、このようなあいまいな基準で行き当たりばったりの捜査をしているということは、証券市場にかかわるもののリスクがとてつもなく大きくなる。結果証券市場だけでなく日本経済全体でリスクをとるものが誰もいなくなり、結果ますます経済が低迷し、ますます多くの雇用が失われてしまい、社会が不安定化するものである。
あまりいい例えが思いつかないが、制限速度50キロメートルの道路で、45キロで走っていたのに、突然スピード違反の疑いで捕まえられ、必死に制限速度以下で走っていたといっても聞き入れられない。「そんなはずがないから証拠を見せてくれ」と頼んでも「われわれが調べたのだから間違いない。証拠を見せる必要はない」の一辺倒。一方で、その横を100キロを越えるスピードで車がびゅんびゅん走っていくのに、こちらのほうは全くの見て見ぬふり。あきらめて最悪罰金かと思ったら、懲役10年だといわれた。こんなでたらめが起こると、誰も車を運転しなくなって、経済が大混乱する。まあ、こういうようなことが実際に起こっていると考えて欲しい。上記の「われわれが調べたのだから間違いない。証拠を見せる必要はない」は、私自身、取調官から何度も聞かされたせりふである。それから大声で机をたたいて署名を強要するところなどは、テープに録音してあり、いつでもどこでも出すつもりである。
ペイントハウスはジャスダック証券取引所に上場していたが上場廃止になっている。その点においては株主にだけは迷惑をかけたことになるが、この点についても少し説明しておきたい。ペイントハウスは問題とされている増資があった平成17年5月の少し後に、130億円の転換社債を、社債権者集会を開いて10%までの債務の減免を承認していただき、その債務免除益でもって平成17年8月期の債務超過から脱出でき、上場が維持されるはずであった。詳しいことは省くが、後でその債務免除益の確定時期を巡ってジャスダック取引所と関東財務局から疑義をはさまれた。そして有価証券報告書の訂正命令が出そうになり、同時に虚偽記載で刑事告発まで匂わされて、やむなく自主訂正したところ、待ったましたとばかり上場廃止にされてしまった。明らかに犯罪者扱いであったのである。
しかしこれも明らかに不当な扱いである。かりに債務免除益の確定時期が違っていたとしても、それは見解の相違であり、何も悪質なものではなく、指摘されて有価証券報告書を自主訂正すれば良いはずである。しかし、これで即刻上場廃止になったのである。
ところが監視委員会では、有価証券報告書の検査は前述の「課徴金課」がやっており、最近の例では、たとえ会社ぐるみの非常に悪質な粉飾決算が発覚しても、有価証券報告書の自主訂正を行えば、ほとんどのケースは上場も維持され(管理ポストに入っていても、通常ポストに戻してくれる)、せいぜい軽微な課徴金が課せられるだけである。繰り返すが課徴金が課せられても、これは犯罪ではないのである。私は最近まで粉飾決算は犯罪だと思っていたのであるが、どうもそうではないことが多いようなのである。
繰り返すが、ペイントハウスは何も悪質なところがなく、単に見解の相違を指摘されたものが、虚偽記載のレッテルを貼られて上場廃止になったのである。しかも担当の会計監査人は会計士協会から処分の勧告までされているのである。この違いはいったい何なのか?
課徴金についてもう少し書くと、NHKの報道にかかわる社員のインサイダー事件があった。これは、その立場を利用した非常に社会的にも大きな悪質極まりない事件であったにもかかわらず、70万円くらいの課徴金という、まったく人を馬鹿にしたような処分で終わりになった。繰り返すが課徴金は犯罪ではないのである。これは報道に携わる人間が、その立場を利用して私腹を肥やそうとした、ある意味とんでもない事件で社会的な悪影響も非常に大きいものである。そして、この70万円のおそらく何百倍の税金を使った結果なのである。くどくなるが、この事件の社会的な重要性から考えて、犯罪ではない課徴金処分にしたこと自体も理解できないが、その分金銭的な制裁を加えることにしたならもっと多額の課徴金をかけるべきである。それが70万円と言うことは、単に税金を無駄に使って納税者である国民を愚弄しただけである。これ以外にも、明らかに重大だと思われる事件でも、驚くほど軽微な課徴金のみで終わってしまうケースが非常に多い。
まだ、課徴金が課せられるケースはましだとして、前述のアーバンコーポレーションとか、トランスデジタルとか、井上工業や、その他こちらから見ていて明らかに悪質で犯罪性の高い事例が数多くあるにもかかわらず、全く無罪放免にしているのである。
私が最近分かってきたのは、このような不公平が起こるのは、監視委員会の情報源が非常に貧弱だからということである。膨大な血税を使い、強大な権限を与えられ、官庁でほとんど唯一、人員増加が認められている監視委員会であるから、その情報源は非常に整備されていると思うが、これがとんでもない間違いなのである。
まず監視委員会の大事な情報源がタレコミである。監視委員会はホームページでタレコミを奨励しており、年間7000件くらいあるそうである。私の場合は、ペイントハウスの元創業者の星野初太郎氏にタレこまれたのである。星野氏はペイントハウスを放漫経営で危機に陥れ、文字通り放り出したのである。そこで同じような会社をすぐにつくり、ペイントハウスから営業の人材を引き抜こうとしたが、優秀な人材はほとんど動かなかった。そこで「会社を悪い奴が好き勝手にしています」とでもタレこんだのである。監視委員会が本当に強制調査でもしてくれれば、ペイントハウスの評判が落ち、人材の引抜がやりやすくなるとでも思ったのである。まあその星野氏の思惑にまんまと乗ったのが監視委員会の特別調査課の主任クラスだったので(名前もわかっているが)、そのまま特別調査課の担当になってしまったのだと思われる。
このときその主任クラスが、それこそネットの書き込みや、三文雑誌や、与太ブローカーくらいしか情報源がなく、それによると私の評判が余りよくなかったので、「これはいける」と思って突っ走ってしまったのであろう。少なくともその段階で、監視委員会のなかで、総合的に考えて、いろんな事例の中から、どの事例を優先的に取り上げるべきなのかを討議した形跡は全くなく、また大げさに強制捜査をかけて税金を無駄遣いする前に、私にもちょっと事情を聞いて比べてみる、なんてことは考えもしていなかったようである。つまり監視委員会の今の体制では、悪質な順番、社会的に悪影響の大きい順番に取り上げて、公平な処分を下し、証券市場の浄化に寄与することは全く不可能なのである。
そもそも私の仕事は、業績が振るわなくなり、資金調達の道がほとんどなくなってしまった上場会社に対し、資金調達だけでなくあらゆる相談に乗って会社を再生していくことである。そして、私は上場企業の代表者からの直接の依頼でないと絶対に受けない。したがって世に言うブローカーの輩を使うことがなく、実際ブローカーとの付き合いもほとんどない。だからブローカー連中から見ると面白くなく、また何をやっているのか理解できないため、いろいろ私の悪口を言ったり、ネットに書き込んだりしていたのであろう。またそんなブローカー連中しか情報源のない三流ジャーナリストが推測記事を書いていたのである。私自身はそれらを全く気にしていなかったが、まさか膨大な血税を使っている監視委員会がそんな情報を重視しているとは思ってもいなかった。結果はいつの間にか「最後の大物」なんて名前を付けられて、監視委員会の格好のターゲットになってしまったのだと思う。監視委員会も担当の主任クラスも、どうしても自己主張のため、「大物」を追っかけたい。私は全く知らないままに、「最後の大物」にされてしまったのである。これも監視委員会がもう少しまともな情報源を持っていれば起こらなかったことだと思われ、このままでは、同じような悲劇が繰り返されるのである。
最後に、ここまでやるかと言う事実を付け加えておく。強制捜査が入った後、当社の取引先の大半が、当社と取引をしているという理由だけで次々と銀行融資を止められ、さらには貸し剥がされ、結果何社かはつぶれてしまった。これははっきりと銀行が融資引き上げの理由として当社と取引があるからで、当社は監視委員会に強制捜査を受けたからだと言っている。これはとんでもないことで、かりに強制捜査を受けても、現時点では何の結論も出ていないのである。これは監視委員会がそうさせているのか、それとも金融庁がそうさせているのかは不明であるが、とんでもない事実なのである。まあ兵糧攻めをやって、つぶしてしまえば(罪を)認めるだろう、くらいに思っているのであろう。
とにかく、何度もいったように、これが膨大な血税を使い、強大な権限を与えられた監視委員会の実態なのである。金と人が有り余るほどあり、かつ強大な権限が与えられていればなんでも思い通りにできるのである。ただ悲劇は、その監視委員会の行動が全く不公平・不合理なことである。間違っても誰にも咎められず、知らないうちにマスコミ等を使ってつじつまを合わせてしまうのである。私は自分の身に降りかかっているので、その恐ろしさが良くわかっている。自分の身を心配しているのではなく、このままだと日本の証券市場や日本経済がますます泥沼にはまり、町中に失業者が溢れかえり、ますます国民は絶望していくことがはっきりと予想できるからである。この恐ろしさを皆様に少しでもわかってもらおうと渾身の力で書いたものである。
平成21年6月5日
ソブリンアセットマネジメントジャパン株式会社
代表取締役 阪中彰夫